友綱事務所では、個人の不動産や預貯金などの財産の相続について遺言信託を検討されているお客様に対して、遺言書の作成のためのご相談やアドバイス、文面の確認などのサポートを行っています。
終活という言葉が一般的になり、ご自身の財産やご家族のことを想うとき、遺言書を作成されることは非常に重要であり、法律的に有効な手段として遺言信託は効果的です。
遺言信託の手続きに必要な書類や、遺言の作成から信託までの流れについてご説明いたします。
遺言信託とは
遺言信託とは、 主に信託銀行が提供しているサービスで、遺言書の作成から保管、執行までの一連の手続きをすべて代行してくれるものです。法的に有効な遺言書の手続きとして、とても強力な拘束力を持っています。
ただし、信託銀行に遺言信託を依頼することによって司法書士が行うよりも費用が多くかかってしまう点には注意が必要です。遺言の対象となる資産が大きくない場合には、手続きにかかる費用の負担が気になってしまいます。
また、信託銀行は法的業務を行う権限を持っていないため、相続に際してトラブルが発生してしまった場合には、ご家族や相続人の話し合いや意見調整には弁護士や司法書士などの法律の専門家が登場することになります。
遺言信託の利用にあたっては、費用面や実効性などについて検討することが重要となります。
遺言信託に必要な書類
遺言信託のための遺言の作成には、次のような書類を用意することが必要です。
必要書類 | 書類の内容 |
遺言書正本 | 公正証書遺言をした際に公証役場から渡される遺言書の正本と謄本のうち、正本を契約の際に信託銀行等に提出します。 |
戸籍謄本 | 遺言者や相続人に関する戸籍謄本を提出します。公正証書遺言をする際に必ず収集する必要があるので、その際に収集したものを提出してもよいです。 |
不動産登記事項証明書 | 不動産の所有権者が誰か、など権利に関する情報は登記がされています。どのような登記がされているかの証明となるのが、不動産登記事項証明書です。実務上「不動産登記簿」と呼ばれることがあります。相続財産に不動産がある場合に必要となります。 |
財産に関する資料 | 預貯金の場合には預金通帳のコピー・有価証券については証券のコピー・自動車につては車検証のコピーなど、保有している財産に応じて必要な書類があります。 |
相続財産明細 | どのような相続財産があるのかの明細を記載したものです。 |
不動産や株式などの遺産の内容によって用意すべき資料は異なりますので、まずは遺言を作成するにあたってはご自身の財産について把握するところから始めるようにしてください。どのような財産について遺言に記載するべきかについては、友綱事務所がアドバイスをさせていただきます。
遺言信託を選択される場合には、一連の手続きは信託銀行などが行うサービスとなりますが、本当に遺言信託をするべきかどうかについて悩んでいる方や、遺言信託以外の遺言の方法についても確認したい方は、まずは友綱事務所にご連絡ください。
遺言信託の手続きの流れ
遺言信託の手続きの流れは、事前相談、遺言書の作成、保管、遺言の執行という4つのステップで行います。事前相談から保管までの手続きは遺言者が行い、遺言の執行については遺言者がお亡くなりになられた後の手続きとなります。
1.遺言の内容に関する事前相談
遺言は、テレビドラマなどでは頻繁に登場するものの、いざご自身の遺言を作成するとなると、どのように手続きを進めればよいのか分からない方が大半です。
信託銀行が提供する遺言信託を利用することは遺言のための手段のひとつですが、遺言者の意志や、遺言者の財産の大きさによっては適切な遺言の方法は異なりますので、まずはどのような遺言の方法がご自身に合っているのかについて事前相談が必要となります。
信託銀行の窓口や電話で問い合わせを行うと、ほかの選択肢については説明されずに自社サービスである遺言信託を薦められますので、さまざまな遺言の方法について確認したい場合には、法律の専門家として幅広い知識を有している友綱事務所までご相談ください。
2.遺言書の作成
事前相談によって決定した方針に従って、さらに詳細な遺言の内容の確認や、必要書類の準備、財産のチェックを行いながら、実際に遺言書を作成する手続きを進めます。
遺言書を作成するうえで最も重要となるのは、「資産」「相続人」「ご自身の希望」の3つです。遺言信託の手続きをスムーズに進めるためには、次のようなことについて十分に確認を行うようにしましょう。
資産(遺産) | どのような遺産があるか(不動産・自動車・株式・動産など) |
相続人 | 相続人が誰か(戸籍を使って家族関係を整理する) |
相続に関する希望 | 相続における希望があるか(ex.不動産は長男に相続させたい・配偶者の住居を守ってほしいなど |
遺言は、亡くなられたあとのご自身の想いを伝える最後のメッセージとなりますので、3つの項目について十分に確認と検討を行ったうえで作成するようにしてください。
遺言信託では信託銀行が作成のサポートをしてくれますが、友綱事務所でも事前相談からさまざまな選択肢についてアドバイスをさせていただくことが可能です。
作成した遺言書は公証役場に持参し、公証人と証人2名の立ち合いのもとで行います。司法書士として友綱事務所が証人のひとりになることもできます。また、ご病気などで公証役場にご自身が出向くことが困難な場合には、別途費用はかかってしまいますが自宅や病室などに公証人に来てもらうことも可能です。
3.遺言書の保管
公正証書遺言書を作成すると、原本は公証役場に保管され、遺言者には正本と謄本が手渡されます。
この遺言書は、亡くなった後に遺言の執行をするための手続きに利用されます。
そのため、正本と謄本は信託銀行に保管をしてもらうことになります。
遺言の執行
遺言者が亡くなると遺言の執行が行われます。
たとえば、不動産を誰が相続するか決めていた場合には、不動産の名義人を変更することになります。
遺言信託の場合、遺族・受遺者は遺言執行者が手続きをするのに必要な書類を要求した際に、この提出に応じるのみで、手続きをまかせておくことが可能です。
遺言信託は2種類
遺言信託と呼ばれるときには2種類の意味があります。
サービスパックとしての遺言信託
一つは、銀行が遺言のお手伝いをするサービスパックとしての遺言信託です。
遺言については、弁護士や司法書士、行政書士が遺言書の作成の代行を取り扱っています。
遺言書は作成しただけで終わりではなく、遺言書を保管・死後に遺言の内容を実現する必要があります。
遺言書の作成をした上で、これを保管して、万が一のことがあった場合に、遺言執行をする、これらを信託銀行等が行うことを「遺言信託」と呼んでいます。
このページでは、こちらの意味での遺言信託について詳しく解説します。
信託法で定められた遺言信託
なお、遺言信託という用語は、信託法第3条第2号で、民事信託を遺言で行うものを「遺言信託」と呼ぶこともあります。
実際に信託法5条・6条で「遺言信託」という言葉が使われています。
民事信託とは、一定の財産をだれかに託して、その財産から得られる利益を、特定の人に配分する制度のことです。
民事信託も相続対策として利用するのですが、これについては改めて別ページで解説いたします。
遺言信託のメリット・デメリット
遺言信託をすることのメリット・デメリットはどのようなものでしょうか。
遺言信託のメリット
遺言信託をすることのメリットは、きちんとした遺言を作成することができ、金融機関が確実に保管・遺言の実現をしてくれることにあります。
自分で遺言の全文を自書する方法である自筆証書遺言で作成したような場合には、方式を間違えて無効となってしまうような危険があります。
また、遺族の目に触れないような場所に保管したことによって、遺言書が発見されずに相続がされてしまうようなことがあります。
遺言信託は公正証書遺言という公証人が関与して行う遺言で確実に遺言をすることができ、銀行が保管をしてくれてる点で安心して預けることができます。
遺言信託のデメリット
遺言信託をすることのデメリットは、費用がかかる点です。
遺言信託の契約をするときの手数料、保管のための保管料、遺言執行者への報酬があります。
これらの費用は決まった額ではなく、遺産の額に応じて決まります。
遺言をしてから亡くなるまでの期間が長期にわたるような場合には、その分費用がかかることになります。
信託銀行に遺言信託する場合の注意点
信託銀行に遺言信託をする場合にはどのような注意点があるでしょうか。
法的業務ができないため相続に関するトラブルに対応できない
遺言信託をする場合に、信託銀行が行うのは遺言に関するもののみです。
遺言をした際には、
・相続人が占有をしていて引き渡しに応じない
・相続人が本当に遺言は本人がしたものなのか争われる
・相続人に最低限保障されている遺留分を受け取れなかった相続人より、遺留分に相当する金銭請求である遺留分侵害額請求を受ける可能性がある
など、相続に関するトラブルが発生する可能性があります。
信託銀行は遺言をすることのサポートと、遺言の執行のみを行います。
そのため、相続人が占有をしていて引き渡しに応じない、というケースのような遺言の執行に関するトラブルには対応できます。
しかし、遺言の執行に関係のないトラブルが発生したときに、サポートをしてもらえるわけではありません。
この場合には別途自分で対応する・弁護士に依頼する必要があることに注意をしましょう。
身分に関する遺言に対応できない
遺言では主に財産関係についての内容が中心となりますが、身分に関する内容についても遺言で行うことができます。
たとえば、
・遺言による認知(民法781条2項)
・未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条)
・遺言による推定相続人の廃除・廃除の取り消し(民法893条)
があります。
遺言信託ではこれらの事項に対応できないので、こういった事項に関する遺言をしたい場合には、弁護士や行政書士に相談・依頼をして遺言をすることが望ましいです。